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ギリシャ総選挙 [国外]

 欧州金融危機の震源地となってきたギリシャで総選挙が行われ、緊縮策に反対する野党である急進左派連合が大勝したばかりである。同党を中心とするユーロ圏初の「反緊縮」政権が成立するのが確実となった。欧州連合(EU)や有力支援国はギリシャに対して改革の堅持を求めるけれども、次期政権との交渉が不調に終われば「信用不安が再燃しかねない」との懸念が出ているのも事実である。
 EU、各国とギリシャ次期政権には、経済危機と真剣に向き合って、2月末に期限切れを迎えることとなっている金融支援の延長交渉では現実な政治判断を下すよう強く求めたいのである。
 ギリシャの総選挙は2012年5月以降3回目である。急進左派連合が過半数に迫る議席を得られるかは微妙とみられていたのである。しかし同党は約36%を得票した。第1党に与えられる「ボーナス議席」の50議席を加えて149議席(定数300)を得る見通しとなったのである。
 ギリシャでは現与党が今まで進めてきた「国民に痛みを強いる改革」により14年の経済成長率が7年ぶりにプラスに転じる見通しとなった。しかし、昨年秋の失業率が25.7%と依然として高水準であり、耐乏生活への国民の不満は大きいのが現状である。与党がEU主導の緊縮策継続を主張しているのを尻目にしながら、急進左派連合は賃上げなど緊縮策の破棄を訴えて支持を広げてきた。
 英紙によると、今回の選挙は「軍事独裁から民主制復帰を果たした1974年以来、最も重要」として注目されたけれども、結果は「欧州民主主義国で戦後最も左派的な政権」の誕生に終わったのである。
 欧州にはギリシャ経済の惨状が大恐慌期の米国に匹敵するとした上において「その違いはギリシャに回復の兆しがないことである」との悲観論すらある現状である。
 ギリシャ債務危機により、ユーロ圏全体に信用不安が広がっている現状がある。後遺症は癒えるどころか、スペイン、ポルトガルなど南欧諸国が経済不振に陥っていて、今後のギリシャ経済運営は極めて重要だと言える。
  金融上の「安全網」の強化によって、仮にギリシャがユーロを離脱したという場合でも、影響は「制御可能」だとの見方があるのは事実である。しかし、次期政権がEUに債務削減を求めるとするならば、ほかの欧州諸国も政治的に緊縮財政の維持が困難になる可能性がある。ギリシャ金融支援を主導してきたドイツ政府に対しても、自国内で不満が高まることが必至であると言える。
 バトル海沿岸のリトアニアで15年の元日に、ユーロの流通が始まって、99年に11カ国で発足したばかりである。ユーロを象徴とする欧州統合は一層進んだかにみえるが、欧州各国では不安が高まっているのが現状である。
 ユーロ圏外の英国も5月に総選挙を控えている。EU離脱を唱える英独立党が、欧州統合に懐疑的な世論の受け皿として勢いづいている。冷戦終結以来、欧州の安定に大きく貢献してきたEUが結束を維持できるかどうか日本も目を離すことはできないと言えるだろう。






人質殺害映像 [国外]

 週末の深夜に、その映像はインターネット上に投稿されたばかりである。過激派「イスラム国」とみられているグループに拘束されたジャーナリスト後藤健二さんが、地面に横たわっている人物の写真を手にして写っており『湯川さんが殺害された」と英語の音声が流れたのである。安倍晋三首相は「許し難い暴挙」と非難して「直ちに解放するように強く要求する」との見解を述べた。
 この映像には過去の人質映像に合ったイスラム国のメディア部門のロゴがなく、更に投稿者の素性も明らかにはなっていないが、内容から信憑性は高いとみられているのである。後藤さんが声明を読まされている様子で「彼ら(犯行グループ)はもはや金を求めていない」と、自爆テロ事件でヨルダン当局に拘束されている女性死刑囚の釈放を要求しているとのことである。
 人質殺害予告と2億㌦身代金要求で設定された「72時間以内」の期限から1日が経って、事件は急展開したのである。これまでに政府は欧米や中東の各国に協力を求めて、情報収集を急ぐとともに早期解放に向けてグル―プとの交渉の糸口を探ってきたけれども、現時点では安否の確認には至っていないのである。そうした中、要求が身代金から死刑囚釈放に変わって、さらに難しい対応を迫られそうな予感がする。
 虐殺で道理が通じない集団であるのは言うまでもない。家族らの心中を考えると、どんなに非難の言葉を連ねても足りないと言わざるを得ない。時間との闘いは厳しさを増すが、政府はあらゆる手段を駆使して一刻も早く解放交渉への道を切り開いてほしいと願って止まない。
 殺害予告以来、政府は中東有数の情報機関を持つヨルダンのほかに、イスラム国との「捕虜交換」で総領事ら49人の救出に成功したトルコなどに協力を要請したのである。更に、米英両国から情報提供を受けて、シリア地域の部族やイスラム教指導者にも働き掛けて、犯行グル―プとの交渉ルートを探ってきたのである。しかし後藤さんらの安否を確認できていない。グループと接触できないという厳しい状況は変わっていないという現状である。
 イスラム国はイラクやシリアで急速に勢力を拡大した。支配地域の油田からの原油密売で豊富な資金を持ち、ネット欧米にいるイスラム系の若者に参加を呼び掛けていることでも知られている。さらに身代金要求などに応じなかった米英のジャーナリストらの殺害映像を公開するなどして国際社会の大きな脅威になっているのが事実である。
 交渉は容易ではないのは確かである。しかも、釈放要求によって事態は一層複雑になったと言える。「人命第一」と「テロに屈しない」という二つの大原則の下で難しい判断が続くことになりそうだけれども、何とか突破口を見いだしてほしいと思う。
 中東では、この10年ほどの間に日本人の旅行者、ジャーナリストたちが相次いで拉致や殺害の標的になってきた。そして今回、過激派の矛先ははっきりと「日本政府と国民」に向けられたのである。これから紛争地域の情勢や過激派に関する情報収集の強化と在外邦人の安全確保が喫緊の課題となることは言うまでもない。







欧州の量的緩和 [国外]

 欧州中央銀行(ECB)が、国債などを大量に購入することによって金融市場へお金を流し込む「量的金融緩和の導入」を決めた。景気の足取りが弱い上に、更に物価が下がり続けるデフレへ陥る恐れがあるからだと説明している。今年3月から始めて当面2016年9月まで続ける予定ということである。
 量的緩和はこれまでに米英や日本が先行していて、これにユーロ圏も続くことになったのである。ECBは昨年6月と9月の2回利下げに踏み切ったほかに、銀行の企業向け融資を支援する資金供給などを実施してきたけれども、景気押し上げの効果が芳しくなかったにである。
 しかしながら、追加緩和で直ぐに問題が解決するというものでもない。ユーロ圏の景気低迷は一部加盟国の構造改革の遅れに加えて、対ロシア関係の悪化などが重なったためであり、最近の物価低迷は原油価格の急落によるものである。ユーロ安による輸出伸長は多少あるとはいえるだろうが、量的緩和の経済全体への効果は限定的とみた方が適切だと思う。
 「欧州の盟主」ドイツは同様の認識から、量的緩和はかえって改革機運をそぐとして反対してきたのである。この亀裂を修復し、今後も域内の政策調和を保つことが大切でもある。
 ユーロ圏経済の大きな課題は、依然としてフランスやイタリアの構造改革にあると言ってよいであろう。ユーロ加盟条件である財政赤字の削減が後手に回って政策手段に制約がある上に、民間活力を増す労働市場などが進んでいないからである。金融政策の効果を高めるためにも改革を怠らないでもらいたいと思う。
 08年秋のリーマン・ショックに象徴される金融危機から6年余り経った。米国経済が成長軌道に戻り昨年秋で量的緩和を終えたのと対照的に、欧州の不振があらためて浮き彫りになっている現状である。国際通貨基金(IMF)は今月、ユーロ圏の15年の成長見通しを1.2ポイント引き下げたばかりである。
 昨年半ば以降、伸び悩みが特に目立つのが輸出である。中国向けが同国の成長鈍化で振るわないところへ、ウクライナ危機をめぐる制裁措置により対ロ貿易の縮小が重なったことが響いている訳である。ウクライナ問題におけるロシアの強硬姿勢に変化は依然としてなく、制裁緩和の見通しは立っていない減所である。
 量的緩和の景気効果は限定的と見込まれるものの、金利や外国為替相場を通じた影響は日本をはじめ世界へ及ぶ可能性もあって注意が必要である。景気回復で利上げを検討中の米国と金融政策の方向が逆になるためで、ユーロ下落の一方、円高が進む局面も出てくると言える。
 ここで釘を刺しておきたいのは、円が上昇したからと日銀も追加の金融緩和をすることである。日銀は昨年10月に脱デフレを確実にするとして突如、追加緩和を決めたけれども、その後の原油安で「2年で物価上昇2%」の目標達成はほぼ絶望的な状態である。頼みの綱は円安による輸出物価の上昇だけと言っていい状況であるからだ。だが今以上の円安は弊害が大き過ぎる。「通貨安競争」をすべきでないのである。






イスラム国邦人殺害警告 [国外]

 過激派の「イスラム国」とみられるグループが、72時間以内に身代金2億㌦(約235億円)を支払わなければ「拘束している日本人2人を殺害する」と警告するビデオ声明をインターネット上で発表したのは誰でも知るところである。絶対に許し難いテロ行為であるのは言うまでもない。日本政府は2人が速やかに解放されるように全力を挙げて手を尽くしてほしいと願う。
 イスラム国は政情不安が続いている「イラク」と4年前から内戦の渦にある「シリア」の『両国』で昨年夏から勢力を伸ばしてきたのである。
 自分たちに都合の良いイスラムの教義を振りかざして、穏健派信徒や少数民族の迫害を続けている一方で、米英の記者らを処刑する残酷な映像をネットで公開してきたという経緯がある。シリアから国外に逃れた難民は昨年末には約330万人となっており大きな人道問題となっている。
 今月16日から中東4カ国・地域を歴訪した安倍晋三首相は、2億㌦の「イスラム国対策」を表明したばかりである。その柱はインフラ建設や難民への医療、食糧支援など人道援助であった訳だが、ビデオ声明は「日本は8500㌔も離れていながら進んで十字軍に参加した」と非難したのである。全くの的外れも甚だしい。首相の訪問により国内で高まる中東への関心を逆手に取った憎むべき行為である。
 安倍首相は記者会見で、「許し難いテロ行為だ.危害を加えず、直ちに解放するよう強く要求する」と非難した上ぬおいて「人命第一に対応する」と述べたのは記憶に新しい。外国人記者からは、身代金についての質問が飛んだけれども、首相は「国際社会はテロに屈してはならない」と一貫して強調した。
 中東では一昨年1月に、アルジェリアの天然ガス生産関連施設で、イスラム武装勢力の人質に取られた邦人のうち10人が死亡する事件があったばかりである。
 邦人が人質となる事件の「再発を防ぐ」ためには、官民が協力して海外での危機管理意識を高める必要があると言ってよい。時間がかかっても、在外公館の情報収集能力の強化、中東情勢やイスラムのさまざまな側面に精通する専門家の育成にも力を注いでいきたい。
 イスラム国については昨年9月に、米軍が開始したシリア国内の拠点空爆にサウジアラビアなど周辺アラブ諸国が参加するなど、地域を挙げた掃討作戦が展開されたのは記憶に新しい。国連安全保障理事会でも、外国人戦闘員の渡航を禁止する決議が採択されたけれども、イスラム国打倒に向けての国際的包囲網構築への道は険しいのが現実である。2017年初めまでのオバマ米大統領の任期中の壊滅は「困難」と見られていて、日本を含む国際社会は腰を据えて取り組むことを求められているのである。
 フランス週刊紙銃撃事件以降、イスラムに対する世界の目は厳しくなっている。安倍首相は会見で「イスラムの教えと過激主義とは全く別のものだ」と強調した。過激派の非人道な脅しは許せないが、地道に社会建設に努める「イスラム諸国の人々」との関係を深めることはこれからも重要であるのは言うまでもない。




アラブの春から4年 [国外]

 市民による非暴力デモがチュニジアの独裁政権を倒して中東の民主化運動『アラブの春」が始まってから4年が経過している。改革への期待はアラブ全域に広がったけれども「エジプト」では軍主導政権が復活して「シリア」では出口の見えない内戦が続いているなど、混乱収束の見通し立っいない。当時の理念に立ち返って,軍部でも宗教勢力でもない「穏健な世俗勢力」が主導する国家建設を期待したいものである。
 安倍晋三首相は「エジプト・ヨルダン・イスラエル・パレスチナ」の中東4カ国・地域を歴訪した。過激派「イスラム国」への対処を始めとして経済交流の活性化、停滞する中東和平の側面支援などの課題に取り組み、地域安定に向けて貢献できるような首脳外交を深めてほしいと願っていた。
 2014年は中東にとって厳しい年だったと言える。英紙によると、自爆テロ、銃撃、空爆などで10万人以上が殺害されて「その3分の1」は民間人だったのである。1年の犠牲者の数として歴史的にも最悪水準だった。
 パリの週刊紙本社銃撃事件においては、アラビア半島南端のイエメンに拠点を置く国際テロ組織アルカイダ系武装組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が犯行声明を発表した。
 イエメンでは、長年独裁を敷いた大統領が退陣した後に武装勢力の活動で治安が悪化して「テロの温床」となった経緯がある。パリの銃撃事件と同じ今月7日には、警察学校を狙った自爆テロがあって30人が死亡した。先月も25人以上が死亡する自爆テロが2度も発生するなど「アラブの春の後遺症」が癒えないという現状である。
 4年前の「民主化運動」は、エジプトのムバラク元大統領を退陣に追い込んだ瞬間に最高潮に達したのであるが、その後、歴史の歯車は逆転してムスリム同胞団の支持で当選したモルシ前大統領を軍が打倒した。同胞団をテロ組織に指定した上で武力で弾圧したのである。
 昨年夏には国防相だったシシ現大統領が就任した。年末にはデモ隊への発砲を黙認したとして殺人罪で起訴されたムバラク氏に事実上の無罪判決が出る一方で、警察殺害などに関与したとして、同胞団支持者ら188人に死刑が宣告されたのは記憶に新しい。ムバラク旧政権以上に、軍主導の強権体制が復活したと言える。
 反政府蜂起でガダフィ大佐が殺害されたリビアでも混乱が続く一方で、シリアではイスラム国の台頭もあって内戦終結の糸口さえ見えない現状がある。内戦の死者は昨年だけで7万6千人と推定されている。ヨルダンなど国外に逃れた難民は約330万人に達して『過去20年間で最悪」の人道危機と化したのである。
 パリでの銃撃事件直後の「中東歴訪」は安倍首相の地球儀俯瞰外交の中でも、極めて大きな意味を持つといえるだろう。歴訪先では日本が掲げてきた「人間の安全保障」に基づいて、地道な平和構築支援が求められているのである。経済協力を強調するだけではなくて、多様な主義主張に対して寛容であることの大切さを力説することが重要だと言える。





タグ:アラブの春

イスラム国 [国外]

 パキスタンにおいてイスラム武装勢力が陸軍の運営する学校を襲撃して銃乱射や自爆によって生徒ら百数十人が死亡したとても悲惨な出来事があった。オーストラリアの最大都市シドニーにおいてはイスラム過激派支持者とみられる男がカフェに立てこもって人質の男女2人が死亡したばかりである。 
 何の罪もない子どもや一般市民を標的にした卑劣な犯行に強い怒りを隠すことはできない。過激派の蛮行は善良なイスラム教徒への差別も助長しかねない事態である。国際社会は一致団結して過激派テロの抑止に努力すべきである。具体的にどう取り組んでいくのか国連や関係国の会議を通じて早急に検討してほしいと切に願って止まない。
 学校を襲ったのはパキスタンのタリバン運動である。厳格なイスラム法の適用を訴えて同国北西部やアフガニスタン国境地帯を拠点に反政府活動や自爆テロを繰り返してきた経緯がある。今回の襲撃においては軍の武装勢力掃討作戦への報復とみられている実情がある。武装グループは北西部ペシャワルの学校で生徒や教師を人質に立てこもって軍部隊と銃撃戦を展開した。襲撃犯は全員死亡、軍は生徒ら約千人を救出したが、多数が死傷したという悲しい結論になった。
 女子教育の不要論を唱えているパキスタンのタリバン運動は2年前、女子が教育を受ける権利を主張していたパキスタンの少女マララ・ユスフザイさん(17)を襲撃したのである。頭部を撃たれたマララさんは奇跡的に一命を取り留めて活動を続けて先のノーベル平和賞を受賞したのは記憶に新しい。マララさんは今回の事件について声明を発表し「愚かで冷血なテロ行為によって胸が張り裂けるようだ」と襲撃を強く非難してイスラム過激派のテロとの戦いに国際社会の連帯を強く訴えた。パキスタンのシャリフ首相はパキスタンのタリバン運動の掃討への決意を強調しオバマ米大統領や安倍晋三首相ら各国首脳は、犠牲者への弔意とパキスタンの対テロ戦への支持を表明したのである。だが、イスラム過激派の根絶は武力だけでは難しいという現実もある。
①各国が連携したテロ組織の取り締まり強化
②過激派に異教徒や他宗派への寛容を促すこと
③当該国や欧米諸国との和解、過激派の武装解除を進める
④過激派地域の貧困対策や経済振興ーなど
国際社会が協力した総合的な取り組みが必要不可欠である。
 2001年9月の米中枢同時テロ後、米国はアフガンを空爆してイスラム原理主義のタリバン政権を打倒し翌々年2003年の対イラク戦争でフセイン政権を倒して両国に親米政権を樹立した訳である。がしかし、駐留米軍の撤退や縮小により両国や周辺諸国のイスラム過激派反米勢力は息を吹き返したのだ。
 特に今年6月に「建国」を宣言した過激派組織「イスラム国」は欧米などから若い戦闘員を多数集めてイラク・シリアで占領地域を拡大した。パキスタンやオーストラリアの襲撃にも「イスラム国」の影響が指摘されていてこの組織が世界各国への「テロ輸出基地」になりかねないとの懸念がさらに強まった事実がある。各国で危機感を共有して抜本的な取り組みが早急に必要である。




タグ:イスラム国

米・キューバ正常化交渉 [国外]

 オバマ米大統領がキューバと外交関係の正常化交渉を開始すると発表した。正常化が実現するならば1961年の両国断交以来五十数年ぶりとなる。このことは米外交の歴史的転換であると言えるだろう。先進諸国での米国への信頼回復につながるだけでなく、中東・東アジアでの緊張緩和に向けて大きな貢献が期待できると考えてよいであろう。
 他方、キューバ政権を敵視する野党共和党は年明け以後米会議の多数を握るのが現状だ。外交交渉の行方は楽観視できないのも事実である。
 オバマ大統領の演説などによると年明け後の正常化交渉開始、数ヵ月以内の在ハバナ米大使館開設に加え、米側は渡航制限・経済制裁の緩和、「テロ支援国家」の指定解除などを検討する予定である。
 キューバのラウル・カストロ国家評議会議長もほぼ同時に演説し関係改善に意欲を示した。両首脳は演説の前に電話会談を行ったようである。オバマ氏は昨年末、カストロ議長とマンデラ元南アフリカ大統領の追悼式会場で握手して注目を集めたが、それ以前から関係改善の必要性を公言していたのも事実である。 
 11月の中間選挙では予想外に与党民主党が大敗しオバマ大統領は内政での主導権を失った。大統領の裁量の余地がかなり大きい外交で局面を打開しオバマ政権として業績を残すことを狙ったとの見方もできるだろう。同時に、政治的発言力を増すキューバ系米人の支持を得られるならば2年後の大統領選への影響力回復も可能だとの打算も感じられる面があるのも否定できないだろう。
 改革路線をとるキューバにおいても貿易再開や投資受け入れで長期間低迷する経済にてこ入れしたいとの声が表面化していたのも事実である。
 中南米出身として初めてローマ法王となったフランシスコ法王が今回仲介に当たったことも進展の背景にあると考えてよいであろう。
 米国は19世紀末にスペインとの戦争に勝利して以来キューバを保護領化してカリブ海・中米諸国を自らの「裏庭」として扱ってきた経緯がある。キューバ革命政権が米資産を前面接収したことから米は国交断絶に続き全面禁輸を発動した。62年には米ソを全面核戦争の瀬戸際にまで追い込んだキューバ危機が起き地域の反米感情が更に高った経緯もあることは見過ごすことはできない。
 米がキューバと和解すれば、ベネズエラ・ボリビアなど地域の強硬な反米政権との関係改善も期待でき中南米は一層の緊張緩和に向かう好循環に入ると見ることもできる。
 世界的視野からも両国の雪解けは70年代の米中和解と並ぶ外交上の意義を持って冷戦後の遺症解消につながると期待できる。長年孤立を続けてきたイラン・北朝鮮・和平が行き詰っているパレスチナ問題への影響も大きいだろう。 
 大統領は「キューバ孤立政策は効果がなかった」と認めたことは大きな進展である。米はベトナム・イラクで軍事力を背景に無理な民主を図り世界に大きな混乱をもたらした。今後、自らの失敗を直視する「政治的勇気」を持って世界の平和と安定に貢献するべきだと考える。




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